独裁心中

せとらえとの子宮。掃溜の思考と考察、ホラーショートショートを綴る。

【小説】果ての乞食

私は上手く食事が出来ない。
いつからだろう。気がつけば普通の食事を摂ると自然に嘔吐するようになった。
自分が食べれる物を探して片っ端から試したが駄目だった。
水さえも生臭くて、呑み込んでは吐き出す事を繰り返していた。
みるみる身体は痩せ細り、立つこともままならなくなった。
何か食べなくては、何か食べなくては。
だけれどコンビニに行く体力も既に失われていた。

人は長らく飢餓状態が続くと意識が朦朧としてくる。
そして思考回路に異常をきたす。
そして私はきたした。

ーーーまだ口にしていないモノがあったわ。

私は包丁で腕を切る。
水分もまともに摂取していないため、ドロみのついた血液が垂れる。
着ているパステルカラーのワンピースが赤黒く滲む。
乾いた舌でそれをすくってみた。
今まで食べた事の無い味、分からないけれど赤血球たちの味がした気がした。
不思議と嘔吐反応も訪れず、私は歓喜した。

ーーーこれで私も食事が摂れる。

だけど血を飲むだけでは食べた気がしない。
私は氷皿に自分の血を流し込み凍らせ、バリバリと食べるようになった。
冷凍庫の中は次第に狂ったにおいになっていった。

それでも所詮は私も人間。
血液だけでは生命を維持出来ない仕組みに出来ている。
今思うと何故ここまで生きる事に固執していたのか分からない。
やはり人間という愚かな生き物故の本能が私をそうさせたのだろう。

私は自分の左足の指を切り落としてみた。
歩けなくなっても買い出しに行く事もないし、必要ないと思ったからだ。
もう記憶にはないけど多分痛かったとは思う。
まずは一番小さい小指から咀嚼してみた。
爪が歯に挟まって食べづらい。
でも指先の肉はフランスパンのように固く、もっちりとした食感だった。
私は調味料さえ受け付けないからそのまま食べたけれど、普通の人ならガーリックバターなんて塗れば美味しく食べれると思う。
それにしてもやはり私の許可食の血が含まれるだけあって、肉も嘔吐反応が起こらなかった。
久々に固形物を口に出来たことと、その舌に残る程濃厚な甘さに私はハイエナのように貪った。

 

どれくらいの時間が経ったのだろう。
私は自分の睾丸を嚙み千切り、口に含んだ状態で遺体として発見され‭た。