独裁心中

せとらえとの子宮。掃溜の思考と考察、ホラーショートショートを綴る。

【小説】清く濁流

 

私の家は散らかっている。
ゴミ屋敷、なんて近所で噂されているらしい。
10年前家族が焼け死んでから寂しくて、寂しくて、虚しくて、物を集める癖がついてしまったようだ。
初めは粗大ゴミだった。
修理すれば実用性がありそうだったからだ。
でも、気づけば今は浮浪者の飲み捨てたワンカップの空き瓶、カラスの荒らしたゴミ袋の中身なんてのも持ち帰ってしまう。
使うんだ、使うんだ、なんて言って自分に言い訳して結局使ったことはない。

そういえば私は家族がなぜ焼け死んだかを覚えていない。
きっと父親の寝タバコなんだろう、となんとなく理解している。
父親は自営業で仕事が大変で凄くヘビースモーカーだった。
ストレスが凄まじいらしく、いつも帰宅するとイライラしていた。
母親はというと、ただの専業主婦。
ただのとは言っても家事を完璧にこなすものだから料理はいつも美味しいし、掃除なんて感嘆符が付いてしまうくらい家はピカピカで無駄な物も塵ひとつなかった。
私はまあ普通より少しいい暮らしが出来ていたほうだろう。
衣食住もそれなりだった。
今思うと有難い話だった。

 


雨上がり。今夜もゴミを集めに深夜徘徊をしていた。
オンボロな乗れそうにもない自転車と食べかけのコンビニ弁当と錆びたペンチと雨でしなびたマッチ。
今日はこのへんにしとくか、とゴミをまとめていたらふと頭の中で声がした。

「断捨離はね、部屋だけでなく身も心も綺麗になれるのよ」

なんだ?断捨離?私とは無縁じゃないか。
なにが断捨離だ。私の気持ちなんて何も分からないだろ。
私はしなびたマッチを踏みにじった。


ーーーあ。


母親の口癖。


私は全てを思い出した。
あの日私は家族を断捨離したんだ。

そして私の心は断たれ、捨てられ、世界から離脱したんだ。